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津地方裁判所 昭和27年(ワ)136号 判決

原告 前川よそ

被告 江崎寿一

一、主  文

被告が津市大字岩田字山中七百八十三番の一宅地百四十四坪、同大字出口七百九十一番の二宅地三坪五合九勺、同所七百九十二番の三宅地三坪三合四勺の三筆の宅地のうちその換地予定地ブロツク番号、符合一一-二〇-一九地積四十二坪の部分につき借地権を有しないことを確認する。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその二は原告、その一は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告が津市大字岩田字山中七百八十三番の一宅地百四十四坪、同大字出口七百九十一番の二宅地三坪五合九勺、同所七百九十二番の三宅地三坪三合四勺右三筆の宅地に対する換地予定地ブロツク番号、符号一一-二〇-一九地積四十二坪、同一一-二〇-八地積六十九坪計百十一坪につき借地権を有しないことを確認する。被告は原告に対し右宅地のうち換地予定地ブロツク番号、符号一一-二〇-八地積六十九坪の部分を右地上に存在する木造瓦茸平家建居宅一棟建坪十五坪九合六勺、木造杉皮茸平家建店舗一棟建坪六坪並に木造瓦茸平家建居宅一棟建坪七坪五合の庇(亜鉛鋼板茸縁側)の内南側一坪五合を収去して明渡すべし。訴訟費用は被告の負担とするとの判決並に右明渡を求める部分につき仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は津市大字岩田字山中七百八十三番の一宅地百四十四坪、同大字出口七百九十一番の二宅地三坪五合九勺、同所七百九十二番の三宅地三坪三合四勺の土地(以下叙上三筆の土地を本件土地と略称する)及び右七百八十三番の一宅地上に木造瓦茸平家建本家一棟建坪二十八坪二合八勺、同上一棟建坪六合六勺その他の建物を所有し右本家及び厠の建物を被告に賃貸していたところ右建物等は昭和二十年七月二十八日戦災により焼失した。しかるところ被告はその焼跡の防空壕に小屋掛をして市内柳山町にある被告所有の非災家屋より時折右焼跡に通い同所に住宅を建築せんとする模様が見えたので原告は将来その土地使用の妨げとなることを慮つて昭和二十一年五月十三日頃被告に対し内容証明郵便を以つて建築を拒絶する旨通告したのであるが其の後津市の復興計画が企画せられ前示原告所有の本件土地は早晩道路敷地となり他に換地せられることが明らかとなつたので原告は当時右土地の一部使用に着手していた被告に対し他に土地を購入して右土地より立退くよう申入れたところ被告は原告に対し過去永きに亘る使用を謝し他に土地を購めて立退くことを誓約したのであるがその際都市計画実施による立退の命令あれば何時でも立退くから右命令あるまで右土地を野菜作りに使用させて貰いたき旨懇願したため原告はその切なる願を容れ昭和二十二年二月二十三日被告に対し本件土地を、期間は右立退命令があるまでの期間を戦災後より起算して一応五ケ年と想定し右命令のあり次第何時にても換地以外に土地を求めて立退くとの約にて形式上起算を遡つて戦災後より向う五ケ年なる昭和二十五年十二月三十一日迄とし地代は一ケ月金三十円とし毎年六月末にその年の七月以降十二月迄の分を前払いし、十二月末に翌年の一月以降六月迄の分を前払いすること、右地代の支払を怠つたときは原告において何等の催告を要せず契約を解除し得る等の定めにて一時的に賃貸した。しかして右土地はその後都市計画の進捗によつて他に換地せられることとなつたが右換地予定地は幾度か変更せられて最後的に昭和二十六年七月十一日附三重県知事よりの指定通知により本件土地に対し一括してブロツク番号、符号一一-二〇-一九地積四十二坪、同一一-二〇-八地積六十九坪、合計百十一坪が換地予定地として指定せられると共に昭和二十七年二月末迄に本件土地を立退くべきことを通告せられたから一時使用の目的でなされた右賃貸借契約は期限の到来にて終了した。仮りに右賃貸借が一時使用のためのものでなく建物所有を目的とする期間の定めない賃貸借であつたとするも被告は昭和二十七年以降の地代を半年前払の約旨に反し支払を遅滞しているので原告は本訴において契約解除の意思表示をする。従つて被告はもはや本件土地従つてその換地予定地につき借地権を有しないに拘らず本件土地従つてその換地予定地につき借地権を有するものなりと主張し且つ右換地予定地のうちブロツク番号、符号一一-二〇-八地積六十九坪の地上に木造瓦茸平家建居宅一棟建坪十五坪九合六勺、木造杉皮茸平家建店舗一棟建坪六坪、木造瓦茸平家建居宅一棟建坪七坪五合を建築し今なおこれが使用を継続しているので請求趣旨の如き判決を求めるため本訴に及んだと陳述し、なお原告が本訴提起当時起住していた名古屋市千種区大久手町三丁目九番地の居宅の敷地は訴外下山某より賃借していたが立退を迫られているので本件土地は都市計画の進捗によつて被告よりその明渡をして貰えるものと信じその暁には同所に居宅を建築すべく考えていたにも拘らず被告は容易に立退を肯じないのでやむなく本訴を提起したのであるがその後に原告は右借地の立退を強硬に迫られ遂に昭和二十八年四月中旬原告が居住していたバラツク建の居宅を取毀して右土地を明渡し現在は津市船頭町千九百三十九番地喜多彦郎方に身を寄せているが右家屋も借家で間もなく明渡さねばならない事情にあり原告としては一日も早く祖先の地たる本件土地の明渡を受け居宅及び店舗を建築し養子を迎え商業を営み老後の安楽を得たい念願であると附陳し、被告の答弁事実をすべて否認した。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張事実中原告が本件土地及び該地上にその主張の如き建物を所有しそのうちその主張の本家一棟及び厠一棟の建物を被告が賃借していたこと、右建物が昭和二十年七月二十八日戦災により焼失したこと、本件土地に対し昭和二十六年七月十一日附で三重県知事より原告主張の如き換地予定地が指定せられ昭和二十七年二月末までに本件土地を立退くべきことを命ぜられたこと、被告が右換地予定地のうち原告主張の土地上にその主張の如き建物を建築したことはいずれもこれを認めるがその余の事実はすべて否認する。被告は昭和二十二年二月二十三日原告より建物所有の目的を以つて本件土地全部従つて換地指定後は換地全部を期間の定なく地代一ケ月金三十円(一坪につき一ケ月金二十銭の割)その支払方法は原告の取立払(原告が被告の住居地に出向いたとき支払う)の定めにて賃借したものであつて原告主張の如く一時使用の目的で賃借したものではない。従つて被告は本件土地につきその成立の時より向う三十年間は本件土地につき借地権を有するものである。なお仮りに原告主張の如く右賃借期間が戦災後より起算して向う五ケ年なる昭和二十五年十二月三十一日迄とするも右は借地権者たる被告に不利な条件であるから借地法によりその定めなきものと看做され結局契約成立時より向う三十年間は被告に借地権がある。仮りに然らずして本件賃貸借が原告主張の如く一時使用の目的のものであつたとしても被告は戦災前本件地上の原告所有の建物を賃借していたのであるから罹災都市借地借家臨時処理法により本件契約成立の時より向う十年間即ち昭和三十二年二月二十二日までは本件土地従つて換地予定地につき借地権を有するものである。被告は地代の支払を遅滞したことなく昭和二十七年六月迄の地代は既に支払済である(尤も昭和二十七年一月より六月迄の地代の受領証を紛失したため被告において改めてこの分の地代のみを供託した)から契約解除の理由なく原告の請求は失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

本件土地が原告の所有であること、被告は右土地のうち津市大字岩田字山中七百八十三番の一宅地百四十四坪上の原告所有の木造瓦茸平家建本家一棟建坪二十八坪二合八勺及び厠一棟建坪六合六勺を原告より賃借していたが右建物は昭和二十年七月二十八日戦災により焼失したこと、昭和二十六年七月十一日附を以つて三重県知事より本件土地に対し一括してブロツク番号、符号一一-二〇-一九地積四十二坪、同一一-二〇-八地積六十九坪合計百十一坪が換地予定地として指定せられると共に本件土地の立退期限を昭和二十七年二月末と指示せられたこと、被告は現在右換地予定地のうちブロツク番号符号一一-二〇-八地積六十九坪上に木造瓦茸平家建居宅一棟建坪十五坪九合六勺、木造杉皮茸平家建店舗一棟建坪六坪の建物を建築してこれが使用をなしていることは当事者間に争がない。

よつて按ずるに郵便官署作成部分につき成立に争なく原告本人訊問(第一回)の結果により爾余の部分の成立の認められる甲第二号証、証人山野久次良の証言及び原告本人訊問(第一回)の結果を綜合してその成立の認められる甲第三号証、証人内田義男の証言及び原告本人訊問(第一回)の結果によつて各成立の認められる甲第六号証の一、二及び同第七号証の各記載に証人山野久次良、同内田義男、同江崎千年の各証言(但し証人江崎千年の証言中後記措信しない部分を除く)及び原告本人訊問(第一回)の結果を綜合すると原告は終戦当時名古屋に居住していたので昭和二十年十一月頃その小作人であつた津市在住の訴外内田義男に本件宅地の焼跡整理を依頼したが本件土地の一部には既に被告がバラツク式の建物を建て被告及びその家族が居住しており他の空地にも材木が積んであつて整理ができずその後になつて被告は右空地の部分を野菜作りに使用し近くその部分にも家屋を建築せんとしていることが判明したのでやがて本件土地を使用せんとしていた原告は斯くてはと昭和二十二年五月十三日内容証明郵便で被告に対し無断で建築すべからざる旨を通告したが間もなくして本件土地は都市計画の実施によつて早晩道路敷地となつて他に換地せられ右土地を使用できなくなることが明らかとなつたので原告は既に被告が右土地の一部に家屋を建て被告及びその家族が居住しその他の部分も被告において野菜作り等に使用していることでもあり又被告に戦災前本件地上の家屋を賃貸していたのであるからいずれ右土地の一部は被告に貸さなければならない事情にあるので昭和二十二年二月二十三日被告に対し本件土地を期間は換地の指定がありその立退命令がある迄と限りただ形式上は右土地に対し立退命令がでるのは一応三、四年先との見込みで期間を戦災後より起算して向う五ケ年なる昭和二十五年十二月三十一日迄とし地代は一ケ月金三十円半年前払の持参払のこと、右期間を越える恒久的建物を築造しないこと等の約にて本件土地を被告に賃貸したことが認められる。右認定に牴触する証人江崎千年、同江崎八重子の各証言及び被告本人訊問の結果は措信できず又弁論全趣旨によつて乙第七、第八、第九号証は原告が都市計画の実施による土地立退料を受けるため原告の印が必要であると被告より頼まれて捺印したものであつて被告主張の如き借地権を認める趣旨で作成されたものでないことが認められるから同号各証は右認定の妨げとなるものでなく他に右認定を覆えし建物所有の目的で期間の定めなく賃借したものであるとの被告主張事実を認めるに足る証拠はない。然らば本件賃貸借は都市計画実施による立退命令のあるまでの間一時使用の目的でなされたものというべきである。しかしながら被告が戦災前本件地上の原告所有の木造瓦茸平家建本家一棟建坪二十八坪二合八勺及び厠一棟建坪六合六勺の罹災建物を原告より賃借していたことは当事者間に争なく原告本人訊問(第二回)の結果により成立の認められる甲第九号証の記載に証人山野久次良、同江崎千年の各証言及び原告(第一、二、三回)被告各本人訊問の結果を綜合すると原告は終戦前より名古屋市に居住し本件地上建物を他に賃貸していて終戦後も名古屋市のささやかながらも自己所有の家屋に住んでおり当時原告には本件土地全部を使用しなければならないような事情がなかつたに反し被告は他に適当な土地がないため罹災後間もなく右罹災建物の敷地に建物を建て被告及びその家族が居住すると共に同所で従来通り味噌醤油の販売を営んでいて本件土地使用の必要が大であつたこと、罹災前本件地上には被告が賃借していた前示本家建坪二十八坪、厠建坪六合六勺の建物以外に二階建土蔵建坪五坪、木造瓦茸二階建住家建坪十一坪二合五勺(二階坪四坪五合)平家建納屋建坪十坪の建物があり被告は右賃借家屋使用のため空地約二十坪、道路として空地約十二坪を使用していたこと、右建物のうち原告が他に賃貸していたのは建坪十一坪の二階建住家一棟と被告が賃借していた建坪二十八坪の本家だけであつたが右二階建住家も罹災当時は空家となつていたことが認められる。叙上認定の諸般の事情の下における本件契約には戦災のため居住していた家を失つた人々を救済するために宅地利用の合理的な調整を図ることを目的とした罹災都市借地借家臨時処理法の準用あるものと解し本件土地のうち被告が現在家屋店舗等を建てこれが使用をなしているその換地予定地のうちブロツク番号、符号一一-二〇-八地積六十九坪の部分については本件賃貸借成立の日より起算して向う十年間即ち昭和三十二年二月二十二日迄右被告の借地権が存続するものというべくその余の部分は前認定の如く都市計画実施による本件土地の立退期限たる昭和二十七年二月末限りその借地権は消滅したものといわなければならない。

次に原告は被告の地代支払遅滞の点を攻撃するから案ずるに成立に争ない乙第六号証被告本人訊問の結果を綜合すれば被告は原告に昭和二十六年末迄の本件賃料を支払い昭和二十七年の一年分は本訴提起後なる昭和二十七年十月十三日被告において履行の提供をせず直ちに供託したことが認められるが昭和二十八年分以降の支払に付ては何等の主張立証がない。従つて被告に本件賃料遅滞の責あるも係争前後の多少の遅滞であり更に被告本人訊問の結果に依れば本件賃料は原告において事実上取立てていたことが窺われるから右遅滞の責は宥恕すべく原告の契約解除の意思表示は未だ効力を生じないものと云わねばならぬ。

果して然らば本件土地につき借地権有りと抗争する被告に対しこれが借地権を有しないことの確認を求める原告の請求は本件土地のうち換地予定地ブロツク番号、符号一一-二〇-一九地積四十二坪の部分に関する限度において理由があるが爾余の部分は理由なく又本件土地のうち換地予定地ブロツク番号、符号一一-二〇-八地積六十九坪の部分につき被告に借地権のないことを前提として建物収去土地明渡を求める原告の請求は理由なきこと明らかである。

よつて原告の請求は被告が本件土地のうちその換地予定地ブロツク番号、符号一一-二〇-一九地積四十二坪の部分につき借地権を有しないとの確認を求める限度において正当として認容し爾余の請求は失当として棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 西川力一 米山義員 家村繁治)

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